2019年4月2日火曜日

春にして君を離れ アガサ・クリスティ


自分だけが正しいという人、いるでしょう?
何事にも自分の考えを押し通し、それは全て自分の良識からきているもので、相手のためだと信じている。
相手の気持ちや状況はおかまいなし。なのに、自分ほど相手のことを考えているものはいないと言う。

アガサ・クリスティというと、サスペンス小説の印象が強いが、この小説は毛色が変わっている。
心理サスペンスとでもいうか、誰も死なないし、名探偵もいない。

主人公のジェーンは、娘の病気を見舞った帰り。
天候不良で足止めされた土地で、ひとり考える時をもつ。そもそも娘の見舞いも、娘さんが「来なくていい」と言うのを、「母親の手が絶対必要。行けば絶対感謝されるはず」と強引に行ったもの。
万事この調子で、夫の農園経営の夢を諦めさせ、娘の結婚相手に反対する。

たしかにジェーンは一生懸命ではあるものの、周囲からみれば、敬遠対象であり、皆が冷めた目で見ている。
そんな中、夫は妻を哀れに思うのか、「poor little Jean.可哀想なジェーン。」と呼ぶが、妻は何故そう言われるのかわからない。

「君はひとりぼっちだ。ああ、君がずっとそれに気づかずにいられますように。」

ひとりぼっちのジェーンと、それに気づかないジェーンと、哀れなジェーンを受け入れ見守る、しかし心は別の亡くなった女性にある夫。
このまま人生を共に歩いていく夫婦。

結局、自分だけが正しいと思っている人は、ひとりぼっちなのだ。
そして、ジェーンと同じ人は、そこかしこにいる。

哀しく、恐ろしい小説である。